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サロンオーナーが知っておきたい人事労務 【第4回】初めてスタッフを雇うとき~社会保険~

サロンをオープンして、初めてスタッフを雇うこととなったとき、何をしなければいけないか?
前回の労災保険・雇用保険に続き、今回は社会保険の手続きについて、ご説明いたします。

① 社会保険とは?

第3回労災保険と雇用保険

社会保険とは、広い意味での社会保険と狭い意味での社会保険、2つの捉え方があります。
狭い意味での社会保険とは「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」の3つです。
一般的に「社会保険」というと、この3つのことを指します。

広い意味での社会保険とは、上記に加えて、「労災保険」「雇用保険」「国民年金」「国民健康保険」も含めます。ちなみに、「労災保険」と「雇用保険」をまとめて「労働保険」と言います。

② 必ず加入しなければならないのか?

社会保険への加入は、強制適用と任意適用があります。
強制適用事業所に該当する事業所は、サロンオーナーやスタッフの意思にかかわらず社会保険へ加入しなければなりません。

一方、任意適用は、強制適用事業所ではないけれども、サロンで働く半数以上のスタッフが適用事業所となることに同意し、オーナーが申請をして認可を受けることで社会保険に任意で加入することです。

認可を受けると適用事業所となるので、働いているスタッフは本人の意思に関係なく社会保険に加入することになります(社会保険の資格取得要件を満たしていないスタッフは除く)。

③ 強制適用事業所とは?

株式会社など法人化しているサロンは強制適用です。
法人であれば、スタッフを雇っていないオーナー1人のサロンでも強制適用事業所となります。

一方、個人事業のサロンは強制適用ではないので、社会保険への加入義務はありません。

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④ スタッフ全員が社会保険に入るの?

資格取得要件を満たしているスタッフのみが、社会保険の被保険者になります。

【社会保険の資格取得要件】

1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上
(※スタッフが101人以上のサロンであれば、上記の資格取得要件を満たさないスタッフも被保険者となる可能性がありますが、今回は説明を省略させていただきます)

つまり、正社員の4分の3以上働くスタッフであれば、パートタイマー・アルバイト等でも原則、被保険者になります。
正社員は週40時間・1ヵ月20日働くルールのサロンであれば、週30時間・1ヵ月15日以上働くスタッフは被保険者としての手続きが必要です。

➄ どのような手続きが必要なのか?

【新規適用の手続きに必要な書類】

  • 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
  • 法人登記簿謄本(90日以内に交付された原本)
  • 法人番号指定通知書(コピー)
  • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
  • 健康保険 被扶養者(異動)届 *注1
  • 健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書 *注2

※注1…スタッフの家族を扶養にいれる場合に必要です。
※注2…健康保険料・厚生年金保険料を口座振替によって納付するときに必要です。

【提出時期】

加入要件を満たしてから5日以内

【提出先】

サロンの所在地を管轄する年金事務所

【提出方法】

電子申請、郵送、窓口持参

⑥ サロンが負担する保険料はいくらぐらいになる?

(例)
被保険者となるスタッフが3名(3名とも40歳未満)
3名の平均給与額200,000円(月額)、ボーナスの支給はなし上記例のケース
    ↓ ↓ ↓
サロンが負担する健康保険料・厚生年金保険料は年間約1,045,000円になります。

<概算保険料の前提>
・社会保険料には、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料及び子ども・子育て拠出金が含まれます。
・平均給与月額を対象者全員の標準報酬月額とみなしています。
・協会けんぽの全国平均保険料率10%(令和5年度)を使用しています。
・40歳~64歳の介護保険料率1.82%(令和5年度)を使用しています。
・子ども・子育て拠出金率0.36%(令和5年度)を使用しています。

厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイト内の「社会保険料かんたんシミュレーター」で試算できますので、ご活用ください。

■厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi/

⑦ 個人事業のサロンが社会保険に加入するメリットはある?

社会保険の加入により、スタッフが私傷病による休職をした時は傷病手当金、出産した時には出産手当金を受給できるメリットがあります。また、将来もらえる年金額も増えます。
個人事業のサロンは強制適用ではないため社会保険に加入をしていないサロンもあるので、社会保険に加入をしていることで、スタッフ採用において有利となる可能性もあります。

もちろんスタッフのみならずサロンにも保険料の負担が発生しますので、保険料額を試算した上での加入をお勧めします。
個人事業のサロンが任意で社会保険に加入する場合、手続きに必要な書類が強制適用事業所とは異なるので、管轄の年金事務所へ事前にご確認ください。

また、法人のサロンオーナーと異なり、個人事業のサロンオーナーは被保険者となることができませんので、ご注意ください。
資格取得要件を満たしたスタッフのみが被保険者となります。

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⑧ もし手続きをしていなかったら、どうなるのか?

法人のサロンが年金事務所の加入指導後も加入の手続きをせず、立入検査で指摘を受けた場合は2年間の遡及加入、つまり2年間の社会保険料を支払わなければならないリスクがあります。

強制適用事業所に該当したら、速やかに手続きをされることを強くお勧めします。

 

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次回もお楽しみに!

《著者紹介》
社会保険労務士 沖津利可

2012年社会保険労務士資格取得。全国健康保険協会、社会保険労務士法人の勤務経験を経てりか社労士事務所を開業。中小企業の利益拡大につながる男性育休取得促進コンサルティングも行っています。
りか社労士事務所ウェブサイトはこちら https://sr-rika.com/